第20話「石柱の谷」
ゲーム内ステージ説明
険しい地形が目立つC島において、
ひときわ入り組んだ形状が特徴的な峡谷、
狭い谷間や、その中にそびえ立つ石柱などの
危険な地形群と、上空の乱気流をともなった雷雲が
飛行冒険家たちの挑戦心をあおり続ける。
この石柱の谷を攻略できた者だけが、
空の勇者として人々の尊敬を集めることになる。
「いやー、助かりました。あの途中で電話を切られた時はどうしようかと」
「まったく無茶する奴だな。俺がここまで出張ってきたからこのくらいで済んでるが、そうじゃなかったら今頃どうなってたか・・・・」
「はい、それはもう重々」
露天掘りの巨大な縦穴に作られた街並みを進みながらジムに詫びるガフェイン。
鉱山楼下層部の貨物駅へガフェインが無断で着陸してから、ジムはすぐC島へ向かおうとした。
A島南岸の飛行場は先日の墜落事故からまだ復旧していないため、C島までは自身の予備機を伴い海路から向かう事になったのだが、
折悪く悪天候の為すぐには船が出せず、結局ジムがガフェインを引き取るまで一週間を要した。
その間警察のご厄介になっていたガフェインは食事の面で大いに不満があったらしく、
ジムは自身の知り合いの元に顔を出すついでにガフェインを街の食堂へ連れて行くことにして今に至る。
食堂に着き、窓側の席に座って料理を注文するとジムは近くに住んでいる知り合いに会いに行ってくると言って席を立った。
食堂の中はちょうど一日の仕事を終えた鉱夫たちによる飲めや歌えの大騒ぎが繰り広げられ、食堂と言うよりはむしろ酒場ではないかと思うような大賑わいを見せていた。
窓から外を眺めると、夜の到来を告げるように崖に設けられた居住区の日が当たらない部分にぽつぽつと明かりがつき始め、
仕事を終えた人々が上の居住区へ上がっていき、下層の採掘場からの排気を上へ持ち上げる為の巨大なファンも次第に止まっていく。
「そういえばこの街の風景をこうして眺めるのはこれが初めてか」
一週間も居るのになとつぶやいて笑う。そこへ運ばれてきた料理に手をつけるのと同時に用事を終えたらしいジムも戻ってきた。
「ここの料理は絶品だろう?一週間も粗末なメシしか食ってないんじゃ尚更だ」
毎食パンと牛乳だけ(それも腹を満たすには全然足りない量)の食事にうんざりしていたガフェインはジムの言葉に返事する暇すら惜しいのか
夢中で皿へ山盛りに盛られたパエリアの山脈を豪快に削り取っていった。
「うおォン 俺はまるで人間露天掘り掘削機だ!」などと言い出しかねない食べ様に苦笑いしつつもジムは自分の料理に手をつけることにした。
「ところでガフェイン、ちょっと話したいことがあるんだがいいか?」
食べ始めてからしばらく経った頃、テーブルの上に鎮座していたパエリアの山脈が完全に消滅したのを見計らってジムはそう切り出した。
「俺がC島へ向かう船にはセリーナちゃんがお前の機体のパーツと一緒に乗っててさ、それでその時セリーナちゃんから聞いたんだがお前フロートなんて持ってたんだな」
ガフェインはセリーナもC島へ向かうつもりである事について気になったが、とりあえずジムの問いかけに答える事にした。
「ええ、この諸島に来て少し経った頃に縁があって貰ったんですが、使う機会が無くてしばらく倉庫にしまいっぱなしで。
この島は川や湖が多いと聞いたのでフロートがあれば何かの役に立つかもとセリーナに送ってもらうように頼んだんです」
「そうか。だったら喜べ、フロートの使い道はちゃんとあるぞ」
「どういう事です?」
ジムは声を潜め、ガフェインに顔を近づけて言った。
「C島にも遺跡があるんだ」
一年前、ジムはC島西部に設営されたばかりの飛行場からある依頼を受けた。
依頼主によると、飛行場では付近の湖から水をくみ上げ飲料水など様々な用途に使っているのだが、その水に赤土が混じる問題に飛行場設営前からずっと頭を悩ませているとの事。
そこでその赤土が何処から流れ出しているのか、水源への混入を防ぐ事は可能かを調査するのがジムの仕事だった。
そこで川の上流部を目指し飛行すると早速、流れてきた赤土によって川面に赤い線が上流まで引かれているのが見えた。
その赤土に沿って上流へ上流へと飛行して行き、たどり着いた場所は大きな滝だった。滝の奥には広い洞窟が見える。
ジムはここで赤土が滝によって削り取られて流れ出しているのだという事と、こんなに奥地では流入を防ぐ手立てなど無いという結論を早々に出すと、
好奇心から滝つぼの奥の洞窟へと入っていった。そこでジムが見たのは、洞窟内の水の流れを二つに分断する大きな柱。
その柱は中をくりぬいたと思われる穴がいくつも存在した。柱の周りをぐるっと一周旋回して外観を観察すると船着場のような構造物や柱の穴・・・・いや、窓が見えた。
その中からはほら穴のようなふにゃふにゃした輪郭ではない、直線と直角によって構成された通路が見える。
ジムはすぐにこれは遺跡だと理解した。A島やB島にはD島へ向かう為の地図が隠された遺跡が存在するという話は前々から耳にしていたが、
そもそもジムはこの話をあまり信じてはおらず、調査が行き届いていない地区へ飛ぶ人間を増やすための行政側の方便か何かだと疑っていたのだが、
この遺跡を見た瞬間その疑いも消え失せた。そして、帰ってこの発見を証明しようと思い立ったジムであったが、ここで最大の問題にぶち当たることになる。
遺跡の本体は洞窟の中にある巨大な柱、周囲は全て水、飛行機の着陸に使えそうな平らで長く硬い地面は何処にも無かったのだ。
ジムは一旦依頼主の元へ戻り報告を済ませる(当然、遺跡の事は伏せておいて)とあの遺跡へ到達する方法を探し始める。
当時のジムは遺跡発見の手柄を独り占めにしたかった。その為ヘリコプターを調査に送る等、他人の力を借りるような方法は避けて自分の力だけでできる解決法を探した。
そこでジムはフロートの装備に目をつけた。しかしフロートはこの諸島では滅多に出回らない上かなり高価なパーツであり、
持っている人間に借りるにしても高価なパーツを何に使うのか言えない人間に貸すようなお人好しは居ない。無論理由を言ってしまえば尚更貸してはくれないだろう。
例え嘘をついて借りたとしても手柄を立てた際にどんな厄介事を背負い込むかわからない。故にジムは手も足も出せない状態でフロートが手に入る機会を待つしか無かったのだった。
「お話はわかりました。ですが独り占めしたかったのであれば何故俺にこの事を教えてくれたんですか?」
話を聞き終わったガフェインは素直に浮かんだ疑問をジムに投げかけた。
「まあ、理由は幾つかある。前にも言った通り俺は冒険家としては引退の身だ。飛ぶこと自体はずっと続けるつもりだがな。
で、情報を持ってる唯一の人間である俺がそこを目指す事をやめてしまった今、その情報は宙に浮いた状態になっている。
それじゃあ勿体無いだろ?しかし中途半端な腕の人間を送り出して死人を増やすのも目覚めが悪い。最悪、帰り道で地図と一緒に心中される恐れもある。
だから、もし他人に教えることになったらこいつならば!って腕の奴だけに教えようと思ってたんだ」
ジムは喋り続けで乾いた喉をコップに注がれた水で潤すと再び話を続ける。
「ガフェイン、お前は今までに幾つも遺跡を見つけ出してる。俺の仲間の遺志を継いで山脈越えも果たしたし、あそこでヘマをした俺の命も助けてくれた。
お前以上に情報を教えてやるべき人間はこの諸島には居ない。しかも都合のいい事にフロートまで持ってやがる」
骨折から治ったばかりとは思えない力強さでガフェインの肩を左手で叩くジム。
「だから行って来い。お前にしかできないフライトだ」
「本当にいいんですねジムさん」
「ああ、命を助けてくれた礼もちゃんとしてなかったしな。
あと正直な所、俺がこの情報を教えなくともお前だったらいずれそこへ辿り着くだろうと何となく思ってたんだ。勘ってやつかな」
「そうですか。だったらありがたく受け取っときますよ」
ガフェインも同じように左手でジムの肩を力強く叩いた。
それから少し時間が経った。陽は地平線に没し、空は群青から黒へと移り変わり星が瞬いている。
「そういえば色々あって忘れてたが、A島南部の迷宮渓谷を見てきたんだってな。どうだ、何か見つかったか?」
「あっ・・・・」
ガフェインの表情が口を半開きにしたまま固まる。そしてそのまま黙り込んでしまった。
「ガフェインどうした?何かあったのか?まさか遺跡を・・・・?」
「あ、はい遺跡と地図が見つかりまして、ですがその・・・・」
「待て!思い出したぞ。その日は確か地震があって・・・・南岸の飛行場が吹っ飛んだ。フライトが予定通りだったらお前はそこに居たはずだ!どうやって助かった!」
「俺の話は途中だったんですが・・・・まあいいや。えっと、ちょっと遺跡に長居しちゃいまして、気づいた時には到着時刻を一時間もオーバーしてたんですよ。
で、急いで離陸しようとしたらあの地震に出くわしまして。遺跡のあちこちに立ってた柱がバッタンバッタン倒れてきてもう大変!
なんとか離陸しても地震で渓谷のあちこちが崩れだして間欠泉まで活発に噴き出し始めて、それを抜けて飛行場まで辿り着いたら今度は飛行場が大型機の墜落で火の海になってました。
それで燃料も少なく行くも戻るも出来なくなってた時に運良く空中給油機に出くわしまして、色々トラブルもありましたがともかく給油は成功。
そのアシでC島まで出向いてやっと一休みできたって流れです。そこからは連絡手段確保の為にここまで出向いて、で逮捕されちゃいました」
「そうか、大変だった・・・・というよりもよく生き延びられたなお前」
「ですね、そもそも予定通りのフライトだったら死んでましたよ。そういえば、あの地震の時のセリーナの様子はどうだったんですか?電話口ですごい涙声になってましたが」
「正直言って大変だった。彼女の身に降りかかったのは地震だけじゃなかったしな」
この一言を聞いた瞬間、ガフェインの顔色は真っ青になる。そして周囲の目を気にする余裕もなく身を乗り出してジムに詰め寄った。
「え!?セリーナに何があったんですか!だ、大丈夫だったんですか?」
「落ち着け!順番に話してやるから。まずは地震のちょっと前からだ、その時彼女は家内やお前の姉と一緒に酒場に居たんだが、
予定の時間になってもお前からの連絡が来ないから少し参った様子でな。それでもしばらく喋ってたりはしてたが何か思うところがあったんだろう、
C島へ向かう為の準備をすると出てったんだ。そこへあのくそったれの地震が来た。長い地震で揺れが収まるまでしばらくかかってな。
揺れが収まった後に宿へ様子を見に行ったらセリーナちゃんは何かをうわ言のように繰り返しながら床にへたり込んでたんだ。
顔面蒼白、しかも南極へ放り出されたみたいに歯をガチガチ鳴らして震えも止まらなかった。それをお前の姉と一緒にどうにか落ち着けたんだ。
で、一安心してた所へ今度はお前が居るはずだった飛行場が吹っ飛んだなんて知らせが飛び込んできてな。
俺たちはどうにか気が滅入ってる状態の彼女には伝えまいとしたんだが、間に合わなかった。その時の様子は・・・・かなり酷かったとだけ言っておこう。彼女の名誉の為に」
「そんな・・・・。俺のせいで」
「違うぞガフェイン、あの地震はどうしようもなかった。
それと過去にもセリーナちゃんと何かあったそうだが、彼女はそれがお前のせいだとはこれっぽっちも思ってない様子だ。
なのにお前があれこれ考えすぎて背負い込むと逆に彼女のためにならんぞ」
「・・・・・・・・」
「ともかく今日はもう休め。お前の準備ができ次第すぐに次の飛行場まで案内してやる。
ちなみにセリーナちゃんにはもう話は通してあるから、彼女も別ルートからそこへ向かう事になってる」
日は沈みきり、欠けた月が天頂まで差し掛かった頃。牢屋から開放されて一週間ぶりに「人が住める部屋」へ泊まる事ができたガフェインであったがその表情は暗かった。
夕食の際にジムの話を聞いて、ガフェインは後悔していた。
何故セリーナと一緒に居てやらねばならない時に居てやれなかったのか、例え途中で不時着することになろうとも港町まで引き返すべきじゃなかったのか、と。
翌日、ガフェインは特別に駅のプラットホームを滑走路にして飛び立つ許可をもらい鉱山楼を発った。
その後、上空で待っていたジム機と合流し次の目的地である「石柱の谷」手前の飛行場へと向かう。
『最初は機体をバラして飛行場まで列車で運ぶことになってたんだぞ?
だが予定も押してるし、お前も信頼してる人間以外に機体を触らせたくないだろうと思って俺が駅から飛び立つ許可を貰ってきたんだ』
「えっ?あの許可ジムさんが貰ってくれたんですか?ありがとうございます!」
『俺もこの辺じゃそれなりに顔が売れてるからな。向こうもわざわざ列車を使う手間が省けるしWin-Winだ。
まあ飛び立つ時に事故ったらって条件でとんでもない約束をすることになっちまったがな・・・・』
「そうなんですか・・・・ちなみにどんな約束を?」
『聞くな。そもそもお前が無事に飛び立った時点でこの件はもう無かったのと同じだ。いいね?』
「アッハイ」
『さあ、見えてきたぞ。あれだ』
遠方に飛行場と、大きな灰色の渓谷地帯が見えた。
飛行場で燃料を補給している間、ガフェインはジムにこれから通り抜けることになる「石柱の谷」についての説明を受けた。
曰く、渓谷そのものは大した事はなく、これまでに飛行してきた場所と比べてもそれほど難しくはないが、渓谷全体に霧がたちこめており迷子になる機も時折発生するとのこと。
その為今回は道を知っているジムが先導し、最短距離で出口へと向かうことになった。
ちなみに名前の由来である風の浸食によってできた特徴的な石柱も進路を阻む要因とはなりえるが、所詮それだけだという。
「こうして先導してもらうのも山脈の時以来ですね」
「今回はあの時よりはずっと余裕もあるし、何より何度も通った場所だからな。言ってみれば庭みたいなもんだ。だから安心してケツについてもらっていいぞガフェイン」
「なんかお世話になりっぱなしで申し訳ないです」
「気にするな、こういう時に助け合ってこその仲間だろ?それにお前への借りはまだ返し終わったとは思ってない」
「それは・・・・そうですね、お世話になります!」
「そういうことだ。じゃあ行くぞ!予定通りいってればセリーナちゃんもそろそろ南岸の港から気球で目的地の飛行場へ向かってるはずだ」
飛行場から飛び立った2機が谷へと向かう。谷の入口へと近付いた彼らを雷の音が出迎えた。
「ジムさん!天候が悪化してきたみたいだ!どうする?」
『問題ない!渓谷の中じゃ雷は他の背の高い物に引き寄せられる筈だ。高く飛んでりゃ別だが飛行中の機に当たるなんてそうそうありえん!このまま突っ切るぞ!』
ガフェインはジムが以前墜落した時のように引き際を見誤っているのではと一瞬心配したが、彼が以前のように意地になる要素はここにはないと気づきもうそれ以上は言わなかった。
2機連なって渓谷を飛んでいく。なるほど霧は別としてこれなら対して気張らなくても飛べそうだ。ガフェインはそう思って安堵した。
『それっ!運試しだ!ついてこいガフェイン!』
前方を飛んでいたジムが突然高度を下げ、崖に立て掛けるように傾いた石柱の下をくぐり始めた。
「ちょ、ちょっと!う、うおおっ!!」
ガフェインは突然の出来事に戸惑いつつも後について石柱をくぐった。当然すぐに抗議の声を上げた。
『はっはっは、許せガフェイン。だがあれは大丈夫さ。本当に倒れそうな奴はもっと風化してボロボロだからな』
「次やったら本気で怒りますからね!」
『それよりちゃんとついてきてるか?霧が濃くなってきた上に雨も降ってきたぞ』
「大丈夫です。そっちも先導頼みますよ」
渓谷はまだまだ続いていく。だがこのままジムについていけばいずれは出口にたどり着くだろう、そんな安心感がガフェインにはあった。だが・・・・。
『よし、もうこの辺で半分くらい・・・・』
ジムの言葉は前方からの轟音にかき消された。
『まずい!こんな時に倒れるのかよ!!』
前方の石柱は真横に倒れた為衝突の危険は無いが、ジムの声色からは明らかに楽観した雰囲気が消えていた。
『ガフェイン!この辺の柱はみんな思ってたより風化が早い!気を引き締めてかかれよ!』
「ジムさん、前にまた石柱が!」
『クソッ!避けろガフェイン!』
前方で崩壊する石柱をジムは右、ガフェインは左に回避した。その結果、2機は別々の谷間へと別れてしまう。
『しまった!ガフェイン!』
「ジムさん!谷は狭すぎて反転は無理です!このまま進むしかありません!」
『わかってる!南西へ向かえ!出口はそっちの方角にある!出口で会おう!』
「わかりました!」
通信を終えたガフェインの前で更に別の石柱が崩れ落ちる。
「くそっ!どうしていつも俺が通る時に崩れるんだ!!」
次々と崩れる石柱を寸前で回避しながら渓谷を進んでいく。必死に飛んでいて気がつかなかったが、霧はもうだいぶ薄れていた。
『ガフェイン!こちらは渓谷を抜けた!そっちはどうだ!』
「ここがどこかもわかりませんが・・・・霧は薄れてきました!」
『いい兆候だ。出口は近いぞ!』
あともう少し。ガフェインはそれを信じて飛ぶ。すぐに前方の谷が開け、出口が見えてきた。
『いいぞ、お前が見えた!そのままでかい岩を超えてまっすぐ進め!そこで・・・・』
その瞬間、ガフェインの視界は漂白された。
何が起きたのかわからない
渓谷の出口が見えて
目の前が真っ白になって
何も見えなくなって・・・・
『ガフェイン!大丈夫か!』
「・・・・う、あぁ・・・・」
ジムの声を聞いてかろうじてうめき声を絞り出す。
『ガフェイン!俺の声が聞こえるか!』
「き、きこえる・・・・」
『よかった、機体は無事か?』
「機体・・・・?ここは・・・・何も見えない・・・・」
『まさか・・・・さっきの落雷で目が・・・・何てことだ!』
頭はだんだんはっきりしてくる。だが目の前は相変わらず見えない。その事実を理解してガフェインは絶望した。
目が見えなければ何もわからない!方位も!高度も!速度も!残燃料も!地面がどこに見えているかも!向かうべき場所も!
あとどのくらい飛んでいられるのかも!いつ落ちるのかも!いつ死・・・・
『うろたえるな小僧!!』
ジムの一喝でガフェインは絶望的な思考から覚めた。
『いいか!使えないのは目だけか?腕は動くな?足は動くな?耳は聞こえるな?頭は動くな?なら俺の言う通りに飛べ!』
「は、はい!」
『いいな?お前の機体は今左側に若干傾いている。まずはそれをゆっくり水平に戻していくんだ』
ジムの言葉を頼りに機体の傾きを戻していく。その言葉は力強く、頼もしさを感じた。
『次は高度を上げろ・・・・そこだ。次は飛行場へ向かう。ゆっくり右旋回だ』
言われた通りに機体を動かし、手探りでギアを下す。
『よし、エンジンカット!進路このまま・・・・接地!よし、よくやったガフェイン』
機体の停止後、ガフェインはそのまま医務室へと運ばれた。
一時間後、診察と検査を終えたガフェインをジムが迎えに来た。
「どうだった?治りそうか?」
「目が見えないのは一時的なもので、すぐに視力は戻るそうです。それよりもあのレベルの落雷を至近距離で見たのに気を失わなかったのを驚かれましたよ」
「そうか・・・・よかった、これで少なくともリタイアはしなくて済むな」
「ええ、今回は最後の最後までお世話になっちゃいまして・・・・本当にありがとうございます」
「いいさ、これで貸し借りなしだ。お前が負い目に感じることは無い」
「そうですか・・・・ところでセリーナはつきましたか?何か連絡は?」
「まだだ。そろそろついてもいい頃だが・・・・」
すると飛行場の整備士が慌てた様子で事務室へ駆け込んでいった。
「ガフェイン、ここで待ってろ」
そう言うとジムも先ほどの整備士を追いかけて事務室の扉を開け、何が起きたのか尋ねると整備士は答えた。
「ここへ向かっていた気球がさっき墜落した!負傷者も出ている!」
第21話に続く
一つ前にどもる