第17話「迷宮渓谷」
ゲーム内ステージ説明
標高2000mに匹敵する高地に刻まれた、
深さ300mの渓谷が迷路を形成するラビリンス。
迷路の先には遺跡があり、それを守るかのように
間欠泉が取り囲んでいるとされるが、
遺跡にたどり着けた者は皆無に近い。
ガフェインの姉、セメレの登場から四日後。
ガフェインは予定通り到着した空母からパーツの荷揚げを見ていた。
今回も無論のこと着艦をやらされたが、前回とは違い天候が穏やかだったので着艦自体はすんなり終える事ができた。
だが、それ故に空中に着艦の順番待ちができたほど多くの飛行機が空母に群がり、今回のパーツ購入は争奪戦の様相を呈している。
ガフェインは比較的早く着艦した方であったが、狭い空母の中で揉みくちゃにされて目的の場所に中々たどり着けず、予定の半分ほどのパーツしか購入する事ができずにいた。
「ここに居ても仕方ない、帰るか」
そう言って歩き出そうとすると背後に居た男から声をかけられる。
「おい」
ガフェインは振り返って男を見る。
はて、どこかで会ったような気がするが思い出せない。
「どちら様だ?」
「おいおい・・・・。ったく、前にここに降りた時みたいにまた袋叩きにしてやろうか?」
男は機嫌悪そうにそう言うとガフェインに缶コーヒーを放り投げた。
袋叩き?・・・・この声は!
「あの時の通信のいけ好かない男か!」
「いけ好かないは余計だ。まあ、ともかく元気そうだな、ルーキー」
「まあな。ああ、俺はガフェイン・ブルフィンチって名前だ。あんたは?」
「ジェームズ・ロウバックだ。この船、『ジオフォン』の副艦長をやってる」
副艦長?確かに他の連中とは服装も違うな。ロウバックがガフェインの隣に座る。
「へー。偉かったんだな、あんた」
「とてもそうは見えないってか。よく言われるぜ」
ロウバックの年恰好はどう見ても三十代前半だ。まだとてもそんな重要なポストに居そうな年じゃない。
ガフェインが缶コーヒーを飲み始めるとロウバックが口を開いた。
「・・・・うちの商品に不具合があったんだって?」
「あ?」
「港町の整備士たちの話を聞いた。その壊れたブーストを使ってたのはお前だったって話だ」
あれか。最近これの事がよく話題に上がるな。
「まあ、そうだな。特に気にするほどの事でもなかったが」
「そうか・・・・」
「言いたい事が無いならもう帰るが」
ため息をついてロウバックが再び口を開く。
「いや、やはりここは筋を通しておかなきゃな」
「まあ何かあるのか」
ロウバックがガフェインに一枚の紙を渡す。見るとパーツを購入した時に貰う証書のような物だった。
なにやら見慣れない型番が書かれていてどんな物かわからない。
「やるよ」
「え?これって・・・・」
「こっちも商売人なんでな。不祥事に対して侘びを入れるくらいの礼儀はわきまえてるつもりだ」
「いや、俺は気にしてないと・・・・」
「だとしてもだ。侘びの一つくらいは入れないとこっちの気が済まない。それに俺達全体の体面の問題でもある」
「体面?」
「知らぬ存ぜぬで侘びの一つも入れないような礼儀知らずだと思われる方がより大きな損失なんだよ。あと、艦長からも絶対渡すように念押しされてるからな」
商売人としての矜持って奴かね。ここまで言われて突っぱねる意味も無いか。
「わかったよ。で?どんな厄介払い品を俺に押し付ける気だ」
「それは見てからのお楽しみだ。お前なら有効に使えるだろ。他のパーツと一緒に送っとくぞ」
「・・・・・・・」
厄介払い品って事は否定してくれよ。
「ふうぇぇぇぇ、頭・・・・痛い・・・・」
町に戻るとかなり気分悪そうな姉と出会った。
「調子に乗って飲みすぎるからだ。限度を知れ限度を」
昨日、飲み比べで着実に連勝記録を稼いでいた姉がとうとうあの酒場のラスボスであるジムに飲み比べを挑んだのだった。
中盤まではジムと互角の勝負を挑んでいたが、流石はガフェインが来るまで無敗だった元王者、
しかも得意なウォッカでの勝負だったこともあり終盤で一気にスパートをかけて姉を引き剥がし、酔い潰させてジムの完全勝利となった。
リザルト(スピリタス:度数96 一瓶大体700〜800mlくらい)
ジム:6瓶
セメレ(姉):5瓶(轟沈)
ガフェイン:「ああいうのは酒とは呼ばん、硫酸だ」(不戦敗)
と、死人が出かねないため良い大人も悪い大人も絶対に真似してはいけない頂上決戦を繰り広げていた。
ちなみにガフェインは、そんなもん飲んだら喉が焼けかねないし、そもそもウォッカは好きじゃないという理由から不戦敗扱いで断っている。
あの後もジムはもう少しいけそうな雰囲気だったが、まだまだケガ人と言う事で奥さんにストップをかけられそのままお開き。
昨晩は潰れて酒臭い姉をセリーナと一緒に寝かせるわけにはいかず、結局ガフェインは床で寝た。
で、当の張本人は案の定二日酔いで苦しんでいる。いい気味だ。
「うぅ・・・・きもち・・・・わるい・・・・むぐっ!!」
突如顔を真っ青にして口を押さえる姉。
「おいおい、こんな往来のど真ん中で・・・・ってうわぁ!」
「おえぇえぇええぇえぇぇ」
盛大にぶちまけやがった。こりゃ胃の中全部出しやがったな。
悪臭を放つソレをどうしようか一瞬迷ったが、簡単に片付く物でもないので砂で軽く埋めて顔面真っ青な姉を連れその場を静かに立ち去った。
翌日、格納庫に届けられたパーツを確認していると、
「ねーガフェイン、こんなの注文したっけ?」
というセリーナの声が聞こえてきた。
セリーナの所へ行ってみると、見覚えのある型番の書かれた木箱が目に入った。確か、空母の副艦長に貰ったやつだっけか。
「ああ、不祥事のお詫びにって貰ったやつだ」
さて、どんな代物なのやら。木箱の蓋を外して中身に目をやる。
箱の中には円筒形に見えるパーツが一つ入っていた。一緒に入っていた説明書を見る。
「これは・・・・ブーストか」
「え?ブースト?」
セリーナもガフェインが持っている説明書を覗き込む。
「確か代わりのブーストを買い逃してたから丁度良かった。・・・・っておい」
「ぶー・・・・すと・・・・・・・・」
おいおい・・・・。
暗い顔をし始めたセリーナにとりあえず最大火力のでこぴんを喰らわせてやる。
「あうッ!!」
気持ちのいい音を出した一撃にのけぞってセリーナが後ろに下がる。しかし、誰かが置き忘れた工具に躓いて・・・・。
「わっ、ひゃあ!!」
・・・・盛大に転んでしまった。作業着だったからよかったもののスカートだったらパンモロだぞ今の。いや、この場合よかったと表現するのには議論の余地があるか・・・・。
「痛た・・・・もう!何すんのよ!」
「三話も引きずるお前が悪い」
「うっ、確かにずっと引きずってるけど、三話って何よ三話って」
「まあ気にするな。ほら、手かしてやるから立て。頭とか打ち付けてな・・・・ってうわっ!」
さっきセリーナが躓いた工具に躓くガフェイン。当然その先にはセリーナが居るわけで・・・・。
「ありが・・・・ってひゃあ!」
「おっとぉ!」
なんとか両手をついて倒れこむのだけは阻止したが、必然的にセリーナに覆いかぶさる形になってしまう。
「あ・・・・え・・・・?」
「え、えーと、大丈ブッ!?」
セリーナの強烈な一撃で吹き飛ばされるガフェイン。
「バカ!スケベ!変態!」
「ご、誤解だ!ってこら、落ちてるドライバーを拾うな!」
ガフェインは暴走状態にあるセリーナから一目散に逃げ出す。幸い追ってくることはなかったので、時間を置いてセリーナに謝ることにした。
「えーと、このブーストはチャージ式で、セミオート推進は五回まで、手動では推進時間の制御が可能・・・・か」
ガフェインは部屋に戻って新ブーストの説明書を見ていた。セリーナは格納庫で次のフライトのための整備を行っている。
次のフライトはC島に面した飛行場へ移動するついでに、途中にある通称「迷宮渓谷」を探索しようというプランだ。
「ブーストの燃料には液体燃料を使用?ああ、それで加速の制御ができるのか」
今までのブーストは使い捨ての固体燃料式だった。安定はするが点火後の燃焼制御は出来ず推進剤が切れるまで加速し続けるしかなかったので、微妙な加速が必要な時には使いにくかった印象がある。
あと、セミオート推進で一回分の燃料を一度に噴射するとブースト本体の熱量制御が働いて熱量が下がるまで使用にロックがかかる仕組みまでついている。本当に厄介払いかと思いきや結構いい物をくれたな。ただ・・・・。
「液体燃料を使うのか・・・・」
固体燃料と違って爆発の危険性が大きい。地上では安全対策を徹底させるとして、飛行中に衝突して引火でもさせたらその瞬間消し炭になるな、俺。
まあこの諸島では道中で飛行機を駄目にしたら死んだも同然だし、死に方が変わるだけか。どうしても邪魔なら捨てちゃえばいいし。
ともかく必要な情報は大体集め終わったので、次の飛行場へ着陸予定の連絡を入れておくことにした。
次の日、飛行には申し分無い晴れを迎えた。これなら予定通り渓谷を飛行しても問題無さそうだ。
格納庫でセリーナと合流し、機体を滑走路まで移動させる。
「さて、これからC島へ行くわけだが、セリーナ」
「何?」
「俺が発った後、フロートをC島へ送っておいてくれ。C島には大きな河が結構多いらしいから使えるんじゃないかと思ったんだ」
「わかった。すぐ手配しておくね。あと、今度は到着したらすぐにちゃんと連絡しなさいよ」
「わかった。じゃ、もう行くわ。ついたらちゃんと連絡するからな」
「うん、また後でね」
「後で、か。その「後」は俺しだいってわけか、頼もしい整備だな」
「うん、中途半端な操縦で機体壊したら承知しないんだからね」
「任せとけ、じゃあ今度こそ行って来るわ」
「頑張ってね」
「ああ」
コックピットに座り、エンジンを始動させる。計器類も問題なし。離陸準備完了。
ゆっくりとスロットルを上げると、勢いよくプロペラが回転し、機体を加速させていく。加速の心地よい圧力を感じながら操縦桿を引いて離陸。
一瞬の浮揚感を感じるとギアをしまい、渓谷の入り口まで真っ直ぐ飛んでいく。
程なくして渓谷の入り口が見えてきた。
上の入り口までジグザグに走った渓谷を飛びながら少しずつ上昇していくようだが、そんなじれったい飛び方をする気はもとより無い。
新ブーストの性能確認にでも使わせてもらうとするか。燃焼制御をセミオートに設定し、上に見える入り口に機首を向けて操縦桿に付けられたブースト点火用のトリガーを引く。
「うおおおおっ、こりゃすげぇ!」
前のブーストよりも長い燃焼時間と勝るとも劣らない加速力ですぐに入り口まで到着してしまった。
そして滝の上を通り過ぎると渓谷が見えてきた。大して狭くも無いがそこは迷宮渓谷と言われるだけはあり、あちこちに分岐する道に惑わされないように時折方位を確認しながら進んでいく。
少し進むと白く湯気の立った泉が見えてくる。近づいていくといきなり水面から柱のように水が噴出した。確か、この辺には間欠泉があるんだっけか。自分の目で見るのは生まれて初めてだ。本当に水の柱が縦に吹き上がってるんだな。
時折、風化した岩が崩れてくるが、もはや特別驚く事でも無くなってしまった。そういえばこの諸島で最初に飛んだ時はちょっとした落石で大慌てしてたっけな。もういい加減ハチャメチャな状況にも慣れちゃったみたいだ。
そんな事を考えながら渓谷内を進んでいくと、かなり広い一本道に入った。周りを見渡してみると、分岐していた渓谷がこの道に収束していっている。
やがて大きな階段のような地形が見えてきた。ガフェインはそれに沿って上昇していく。一段一段の高さが均等に揃えられたそれは人工の地形のようにも見える。まさかこの先に・・・・。
そう思った瞬間、眼前に泉とその中心に島のように建つ遺跡が目に入った。ガフェインはすぐにギアを降ろすと泉から噴出す間欠泉と所々に立つ柱に注意しつつ遺跡の中央の広場へ着陸した。
機体から降りたガフェインは、まず遺跡内の探索を行う事にした。
今までの遺跡ではウィルドバルへ向かうための地図が隠されていたから恐らくはこの遺跡にもあるだろう。
遺跡自体はあまり広くないので地図はすぐに見つかった。しかしこのまま飛び立つのも勿体無い。折角だから間欠泉を見物していくか。
そう思って遺跡の外周まで行くと、なにやら泉の水を引き込んだプールのような物を見つけた。指先を突っ込んで温度を確かめると、程よい暖かさ。
「この遺跡を作った連中にもこういう遊び心があったわけか。これは入らず行くという選択肢は無いだろうな!」
そう言って服を脱いで風で飛ばされないような場所へ置くと、
「ひゃっほう!」
勢い良く飛び込んだ。
・・・・・・・・。
「あっちぃぃぃぃぃぃ!!」
程よい暖かさだったのは水面付近だけで、深いところはめちゃくちゃ熱かった。くそぅ、ワナかよ。
深い場所を避け、浅い場所が作られていたのでそこへ腰掛けて入浴を楽しむ。入り方を考えれば中々にいい気分だな。役得役得。
しかし気分がいいのも考え物だな、何だか眠くなってきた。
「・・・・・・・・」
ぐう・・・・。
うん・・・・?
「あ!しまった、寝ちまった!」
急いで服へ着替えて時計を確認してみる。到着予定時刻を一時間オーバー。やばい、またセリーナに怒られる!
急いで機体の元へ向かったガフェインは足元に妙な違和感を感じた。ちょっと揺れてるような・・・・。
だが、気にせずコックピットに滑り込んでエンジンを始動させ、スロットルを上げる。
その時、ガフェインの機体が大きく揺れた。最初は機体に異常が出たのかと思ったが、これは明らかに渓谷全体が揺れている。地震、それもかなり大きい。
「くそっ、こんな時にか!」
ガフェインは安全を考えて上げたスロットルを戻そうとした。だが、真横から差した影に目をやると、遺跡の柱が倒れてきていた。いまからスロットルを上げても間に合わない。
「ちくしょぉぉぉぉぉぉ!」
すると機体が突然急加速する。手が無意識のうちにブースト点火のトリガーを引いていた。その急加速で倒れてきた柱をすんでの所で回避すると、今度は前方を倒れてきた柱に塞がれる。早く上昇しないと衝突する。再びブーストのトリガーを引くが反応無し。ブーストの制御機器のモニターには『冷却中』の文字。
前方の行き止まりが眼前に迫る。
「上がれ、上がれ上がれぇぇぇぇ!!」
ガフェインの機体は寸前で上昇し、なんとか飛び立つ事が出来た。すぐにギアをしまい、冷却状態から回復したブーストで速度を稼ぐ。
とりあえず危機を脱し、眼前の渓谷内へ。いきなり遠くから爆発音が響いたが、気にする余裕も無く渓谷を進んでいく。
地震の影響で渓谷全体が崩れ始めて、眼前でも崖崩れが起きる。また、あちこちの間欠泉も地震の影響で活動が活発になっている。それらを避けつつ乱気流の起きている上空に出ないよう渓谷を進んでいく。
頻発する落石や崖崩れ、吹き上がる間欠泉を丁寧に避け、出口を目指して渓谷へ進んでいく。一旦落ち着けばこんなものなんて事はない。塞がれるであろう場所を見極めて、早め早めに手を打っていけばいい。
ようやく見えた出口からC島に面した海が見えてくる。ここから風車小屋の上を飛んでいけば目的地の飛行場が見えてくる筈だ。恐い思いはこれで終わり、もう大丈夫だ。
だが、飛行場がある方向からは黒煙が上がっている。それも尋常じゃない規模で。風車小屋の上まで差し掛かったとき黒煙の正体がわかった。
「なんなんだよ・・・・これ・・・・」
赤と黒。滑走路全体がその二色で覆われていた。そこら中で上がる火の手と黒煙。全壊した施設。火達磨になって散乱した大型機の残骸。
滑走路が火の海になっている!?何故だ!?いや、そんなことより、俺は何処へ降りればいい!この辺の地面は起伏が激しすぎて降りられないし、引き返すことも、ましてそのままC島へ進むだけの燃料も残っていない。完全に打つ手無しだ。
火が消える事を祈って燃料切れまで飛び続けるか?燃料切れまで出来る限り港町まで向かうか?どっちにしろ確実に機体を駄目にする。
ここで飛べなくなるわけにはいかないってのに!
まさに進退窮まったこの時、無線が誰かの声を拾った。
『おい!誰か居ないのか!』
何か活路を見出せないかと考え無線に答えてみる。
「誰だ!」
『やっと応答があったか、こちらは"空中給油機"エムロード』
第18話に続く
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