第12話「巨大山脈」


ゲーム内ステージ説明
何人もの飛行冒険家が挑み、敗れ去っていった
巨大山脈の頂上越え。
吹雪に荒れ狂う、最高峰2800mを上回る
この山を越えることは、諸島に集まる飛行冒険家たちの
大いなる野望であり最高の名誉となっている。


ついにこの日が来た。恐らくはこの諸島最大の難関、巨大山脈を越える。
今まで多くの飛行冒険家がこの山に挑み、そして敗れ去っていった。
今回、この山に挑むのはガフェインやジムを含めて4人。諸島の最古参であるジムはもちろんのこと他の二人、オーシア出身のストナーとノースポイント出身のタカノも経験浅からぬ腕利きの飛行機乗りだ。しかし、そんな強者たちを幾人も飲み込んできたのが、今目の前に立ちはだかる巨大山脈である。
今回は山脈越えのために各々で策を講じる必要がある。無為無策で突っ込んで生きて帰って来られるほどこの諸島は甘くない。
無論ガフェインも可能な限りの策は講じてある。まず、機体下に取り付けてあるブースターが5本。エンジンをさらに出力重視にチューニングし、推力の底上げを図る。さらにどうしても高度が稼げなかった場合の手段としてセリーナが提案した、燃料を投棄して機体を軽くするための改造がある。
確かに余分な燃料を捨てれば機体が軽くなりその分高度を楽に上げられるが、その反面軽くなった分機体が強風に煽られやすくなる。しかも、燃料を投棄後に航行可能な時間は約3分間。燃料が切れる前に山脈の向こうの飛行場に辿り着かなければならないわけだ。下手に使えば墜落の危険が増すいわば諸刃の剣である。当然セリーナからは余程の緊急時で無い限り使用しないように何回も念を押された。
機体のチェックも終わったのでガフェインはフライトの準備に入る。見れば周りの飛行機乗りたちも機体のチェックが終わったようで続々とフライトの準備を始めていた。

準備を終えた者から機体に乗り込み、次々と滑走路に入って行く。全員が滑走路に入ったところでガフェインが無線を開いた。

「此方、Bf-109のパイロットのガフェイン・ブルフィンチ。皆さん聞こえますか?今回は無線でお互いに連絡を取り合いつつ飛行したほうが良いと思いますが、どうでしょうか?」

『よく聞こえるぞ。此方、ソードフィッシュに乗ってるジム・アビサル。俺もお前の提案に賛成だ。途中の峡谷までなら道筋を良く知ってるから案内もできるぞ。』

『此方、P-51のパイロットのフレッド・ストナー。フレッドって呼んでくれ。俺もその提案に乗るぜ。生き残る確率が上がりそうだからな。』

『此方、Fw190に搭乗しているトシアキ・タカノ。無論賛成だ。共に生き残ろうぜ。あ、俺のことはトシアキでいいぞ。』

同業者の快い返事にお礼を言う。

「感謝します。力を合わせましょう。」

全員がエンジンを始動させ、いざ出発。といった所に通信が一本割り込んでくる。

『こちら、Bf-109のパイロットの専属の整備士、セリーナ・ビショップです。私からも一言言わせてください。』

セリーナ?こんな時に一体・・・?

『皆さん、どうか幸運を。・・・以上です。』

セリーナの激励で周りがどっと盛り上がる。

『ありがとよ女神様。感謝する。』

『こんな子にいつも機体を整備して貰っているなんて、ガフェインも隅に置けねぇな。』

『羨ましいぞちくしょう!その幸せを俺たちにも分けろ!』

気づけば先ほどの緊張感もどこかへ消えうせ、明るい雰囲気が周りを包んでいた。

「さあ、お喋りもここまでにしてとっととあの山を越えちまおうぜ。」

『『『おおー!!』』』

大きく広げた翼に風を受け、男たちは続々と飛び立っていった。眼前にそびえる巨人に立ち向かうべく。


離陸した4機は編隊を組み、峡谷の入り口まで飛行していく。湖の上を通り過ぎたところで前方に峡谷の入り口がうっすらと見えてきた。

『此方ジム。ここから峡谷の出口までは俺が案内する。なあに、何度も通った所だ。お前らより数倍は安全に飛びぬける自信がある。』

『此方フレッド。それじゃあお任せしましょうかガイドさん。ガイドの邪魔にならないように少し距離を離す。』

そう言うとフレッド機は距離を離してジム機の後ろに付く。他の機もそれに続いて高度を変えて一直線に並んだ。


峡谷内はやっと通れる程度の幅しかなく、しかも前の機が生んだ気流に干渉しないように高度も一定に保つしかない。迂闊に高度を変えればバランスを崩して墜落しかねないので、今まで以上に神経を尖らせながら飛行しなければならない。皆集中して飛んでいるようで声を出す暇すら無いようだ。そんな中でジムが無線を開く。

『此方ジム。この先の道は3つに分かれている。どの道も結局はすぐ合流するから問題ないが、ここは一番広い中央を行くぞ。』

ジムがそう言った直後、突然峡谷内に地鳴りが響く。

『・・・地鳴り?皆、上を警戒しろ!いつ落石が来るかわからんぞ!』

しかし、近くで落石が起こる気配は無いようだった。ここで分かれ道があるという場所に入る。しかし・・・

「なんてこった・・・・・。」

さっきの地鳴りはここでの落石を示していた。一番広い中央は岩で埋もれ、残ったのは左右の狭い道のみ。とっさにジムが口を開いた。

『二手に分かれるぞ。フレッドはトシアキと左、俺はガフェインと右だ!』

『此方フレッド。了解した。次の合流まで元気でな。』

フレッドとトシアキが左の道へと進路を合わせる。それを見送る暇も無く、ガフェインとジムが右の道へと進入する。
右の道はさっきまでよりもさらに狭く、所々に岩が突き出ていた。
バランスを崩さないためにも迂闊に高度は上げられず、今の高度でなんとかするしかなかった。

『言っとくが・・・・・・左の・・・・クッ・・・・・道も・・・・同じようなもんだからな。・・・・・・考え事のしすぎで・・・・・・・死ぬなよ。』

右も左も結局は同じか。操縦桿を持つ手が震える。クソッ、こんな時に。心の奥から湧き出る恐怖心を押さえながら、必死で峡谷を進んでいく。

『そろそろ中腹だ。急に開けてくるからびっくりするんじゃないぞ。』

ジムの言葉通り、いきなり峡谷が途切れ、ごつごつしたむき出しの山肌が目に入る。しかし、大して難儀するような場所ではないみたいだ。後ろからもフレッドたちが合流したようだ。

『ふう、なんて所だ。まあ、そちらさんも無事で何よりだ。』

『そういう台詞は向こうに着いてから吐くんだな、まだ山も見えてこないぞ。』


山の天気は変わりやすかった。どんよりと曇っていた空の色がどんどん深みを帯び、辺りでは雷鳴も聞こえる。セリーナから聞かされた天候の情報では山頂付近は吹雪になっているらしい。ガフェインは全員に向けて言った。

「こりゃ本格的にやばいぞ。山頂付近は吹雪になってるらしい。」

『吹雪!?そんな環境でまともに飛べるはずが無い!引き返そうぜ!』

『同感だ。残念ではあるが命があればまた挑戦することも出来るだろう。』

フレッドとトシアキが口々に言う。だが、ジムはこう言い放った。

『戻りたい奴は戻れ。俺はこのまま行く。これ以上臆病でいるのはごめんだ!』

ジムは腹を立てていた。他でもない自分自身に。今のジムにはこの地で眠る仲間たちに、巨大山脈を征する事で花を添えてやりたいという思いしかなかった。
それゆえに今のジムは勇敢で、しかしまた盲目になっていた。あのまま1人で向かえば、どこかで墜ちてしまうだろう。だが、今のジムを止める事は出来ない。ガフェインは言った。

「ジム、あんた1人で行かせるわけにはいかない。俺もこのまま行くぞ。」

その様子を見てフレッドとトシアキは言った。

『おいおい正気か?くそ・・・・ジム、ガフェイン、死ぬんじゃねーぞ。』

『二人とも幸運を。』

言い終わると2機は旋回してもと来た道を引き返していった。
残ったジムとガフェインはしばらく無言のまま山を登っていく。しかし、山頂は猛吹雪だ。連絡を欠かさなければすぐに見失ってしまうだろう。

「ジム・・・・」

お互い連絡を欠かさないように促そうとジムに話しかけたその時、前方の岩々が轟音を上げながら突然崩れ始めた。

「まずい!!」

それはジムにとって最悪のタイミングで起こった。
ガフェインの問いかけに反応しようとして、前方に張り巡らせていた集中が一瞬、文字通り“瞬きする程度の間”、完全に途切れていた。


轟音は辺りを包み込み、しばらくすると何事も無かったように消え去った。
ガフェインは岩の隙間ギリギリに機体を通し、塗装が剥げた程度で無事であった。
すでに雪によって辺りの視界はどんどん悪くなっており。目視でジムを確認できなくなっていた。心配になったガフェインが通信を入れようとした時。

『ガフェイ・・・・・無・・・のか・・・?』

ジムから通信が入る。吹雪のせいだろうか、通信にノイズが混じっているが生きてはいるらしい。

「ジム、こっちは大丈夫だ。そっちは大丈夫なのか?」

ガフェインはすぐに返答するが、しばらく答えが返ってこない。やがて、ジムは再び通信を入れてきた。

『やっぱ・・・・信機がぶっ壊・・・・・・のか・・・、な・・・・聞こ・・・・い。仕方な・・、聞こえ・・・・ら黙っ・・・・いてくれ。俺はも・・・・べな・・みたい・・・・・・っきの岩・・・・られちまった。エンジ・・が・・・・・・まった。いま・・・・・・・・・る・・・・』

再び辺りを見回す。すると、風に翻弄されながらゆっくりと下降していくジム機が見えた。エンジンからは黒煙が吹き出ており、所々ボロボロになっている。
近づくと通信の声は多少明瞭になった。そしてジムは続けた。

『ガフェ・・・・・、A島に戻ったら、女房によろしく伝えておいてくれ。』

言い終わると、ジム機は再び風に煽られ離れていく。

『・・・・ダセェな、俺も・・・・・・・』

その声を最後に通信が完全に途切れる。もう無線からはノイズしか聞こえてこない。

「嘘だろ・・・・こんなのあっけなさ過ぎる・・・」

しかし呆然としていたところで何にもならない。すでに山脈はもうすぐそこまで迫り、風も雪も一層強くなっている。後戻りは出来ない。進むか死ぬだけである。
ガフェインはそのまま直進し、山肌のすぐ上を縫うように上昇していく。
この時ガフェインは上昇に伴う速度の低下を抑えるために燃料を投機し、機体を軽くした。風には煽られやすくなったが、その分上昇は楽になる。
途中、力尽きた飛行機の残骸らしきものが目に留まる。ジムの事が頭をよぎったが、それ以上考えないことにした。


しばらく飛行した後、前方の上り坂が途切れた。とうとう山頂に到達したのだ。
ジムとその仲間たちの思いはガフェインの手によって届けられた。

・・・と、そんな喜びもつかの間、エンジンが止まる。

「じょ、冗談じゃ・・・」

途中、燃料を投棄していたのを今の今まで完全に忘れていた。つまるところ、燃料が無い。
ブーストを吹かして速度を確保しようとした。
・・・・反応なし。何度試しても反応が無い。

「くそ、凍っちまったか!」

山頂に到達したばかりで速度も無い。このままだと失速する。
幸いブーストの強制パージ機能はまだ生きているらしく。ブーストをハードポイントごとパージしてさらに重量を軽くする。
しかし、速度は失速寸前。下は新雪だ。ギアを降ろして着陸すれば雪に嵌まって結局凍死してしまう。

だから、ガフェインは敢えてギアを降ろさずに雪面まで降りた。

ガフェインの機体はスキーかスノーボードのように雪面を滑っていく。
Bf-109等の車輪引き込み式のレシプロ戦闘機の多くは、ギアを降ろしていない状態だと機体下部がほぼ平面になる。元々空力のためにそうされたわけでこのような事態は想定されてはいないし、ましてするべきでもないのだが。

惰性で山頂を滑り越え(?)、いよいよ下り坂に入る。ヨーイングで方向を調整しつつ、下り坂で速度を上げて再び離陸した。
そして飛行場まで滑空飛行して、今度はちゃんとギアを降ろして着陸する。
到着後、燃料が無いのでやはり飛行場の面々に協力してもらって格納庫の中へ機体を入れる作業に10分ほどかかったが、幸い今度はどこも壊れていないようだった。

巨大山脈の頂上越え、それに成功したガフェインはその事を飛行場の面々に称えられた。
だが、当のガフェインは、吹雪の中に消えていったジムの事を考えると、素直には喜べなかったのであった。


第13話に続く


一つ前にどもる