第7話「思いがけぬ収穫」


嵐はすでに遠くへと過ぎ去り、空母はもう接岸していた。
港から乗り込んだ人々で空母の中は活気溢れる声で満たされている。
一通りの買い物を済ませたガフェインは、人も増え、やや手狭となった艦内を散策していた。
食堂には自分の後にやってきた飛行機乗り達で賑わっている。

「これは座る場所なんて空いてないかな。」

そう呟いて食堂の前を通り過ぎようとした時、

「あの、この船に一番乗りしてきたパイロットの方ですか?」

誰かに声をかけられたような気がした。ガフェインは声の主のほうを向く、この船の船員のようだ。

「ええ、はい。そうですが何か?」
「少しお時間をいただけるでしょうか?艦長室までお越し願いたいのですが。」

別に急ぎの用事があるわけでもないので、承諾し船員の後についていく。

艦長室に着くと、初老の男性がこちらを向き挨拶をした。こちらも挨拶を返すと、艦長は言った。

「あなたが先ほどこの艦に着艦したという飛行士ですか。私はこの船の艦長をしているローゼンバーグと申します。」
「どうも、ブルフィンチです。しかし、本日はどういったご用件で?」
「あなたの操縦の技術は先ほど拝見させていただきました。大変素晴らしい腕をお持ちで。」
「は、はあ・・・。」
腕を褒められたのは素直に嬉しいが、わざわざ艦長自身が面と向かって言うべきことなのだろうか。艦長は話を続ける。

「そこであなたに是非譲りたいものがあります。」
「譲りたいものとは?」

どうやら何かを渡すために呼びつけたらしい。

「私も昔は一端の飛行機乗りでした。地上に降りているときに事故で片足を失うまでは。ですが、身に付けていた航法と天候読み取る目を使うこの仕事を始めるきっかけとなったのです。」

艦長は右足の太ももをさすった。右足の膝から下が義足になっていた。

「そして艦長まで上り詰めたあとも私の勲章として当時の愛機に取り付けていたフロートを船に載せてきました。しかしこのフロートを倉庫にずっとしまって埃をかぶせておくのは宝の持ち腐れというものです。だから見所のある飛行機乗りにそのフロートを渡そうと決意していました。結論を言いましょう。あなたにそのフロートを譲りたいのです。きっとあなたの役に立つでしょう。」

身の上話まで熱く語られると貰うしかないだろうな。あって困るものではなさそうだし。

「わかりました。あなたのその「勲章」、大切に使わせてもらいますよ。」
「ありがとうございます。あなたのような飛行機乗りに使われるのならば、あのフロートも本望でしょう。」

船長とガフェインはかたく握手を交わす。艦長の顔は嬉しそうでもあり悲しそうでもあった。


その後、ガフェインは空母から飛び立って港町の飛行場へと降り立った。飛行時間は1分程度。奇妙な構図である。

「へぇー、いい話じゃん。それにフロートがあれば水上にも降りられるし。やっぱり嵐の中送り出して正解だったね。」
「正解?冗談言うな!下手すりゃ死んでたぞ!」
「生きてるんだから結果オーライ!それにこのパーツで機体の性能もかなりアップするはずだよ。まあ、改造は私に任せときなさいって。」

届けられた大量のカスタムパーツの前でセリーナが子供のようにはしゃぎながら言った。それにしてもこのフロート、かなり年季が入ってる。きっとあの艦長とずっと一緒に飛んできたんだろう。

「これからよろしく頼むぜ。」

フロートをさすりながらそう呟いた。・・・・とは言ってもしばらくは使う用事は無さそうだが。

翌日、機体の外見が大きく変わっていた。昨日の夜セリーナが夢中で機体をいじっていたが、どうやら届いたばかりのカスタムパーツを早速取り付けにかかったらしい。そして取り付けた張本人はというと・・・・・・・・機体をいじっている途中で眠ってしまったのだろう、工具を持ったままで主翼の上でよだれをたらしながら・・・・・・・本人の名誉のためにこれ以上は割愛させていただく。だが結構面白いので宿の部屋までカメラを取ってきて寝顔を撮る。

パシャリ!

誤算だった。ガフェインは誤ってフラッシュを焚いてしまったのだ。まずい、大いにまずい。
そう思った瞬間、大きめのスパナのようなものが顔面に・・・・・・ここで記憶が途絶える。

気を失う前にガフェインが最後に見たのは、顔を真っ赤にしたセリーナの怒っているような恥ずかしがっているような顔だった。



第8話に続く


一つ前にどもる