第6話「空母」
ゲーム内ステージ説明
諸島の開拓者や冒険家たちは、自らの船や飛行機などを
自分好みにカスタマイズして使用しているものが多い。
そしてこの空母は、それらのカスタムパーツを運搬する
輸送船の役割もかねており、さまざまな取引が
行われている。
今日は空母が来る、とはいってもこの雨じゃ着艦しようにも視界が悪すぎる。
天気予報によると嵐が近いらしい、さっきから空がどんどん暗くなっている。今日は無理か。残念だが。
「ほらほら〜、ぼさっとしてないでとっとと支度する!」
とうとう宿の部屋にまでセリーナが押しかけてきたらしい。
ん?支度?・・・・・・・まさかセリーナの奴、こんな日に俺を飛ばす気か!?冗談じゃない。こんな日に嵐の海なんかに落ちたら生きては帰れないってのに。それに、こんな日に飛んで死んだら後輩の飛行機乗りどもに無謀な阿呆として四半世紀は語り継がれる事になる。
「今日は着艦は無理だ。嵐が去ってからにしてくれ。大体、こんな日に飛ぶ奴なんて普通いないぞ。」
「誰も飛ばないからますますいいんじゃないの。いいパーツを独り占めできるし、ここで着艦に成功したら英雄になれちゃうよ?」
失敗したらバカの見本になれるけどな。
「リスクが大きすぎるだろうが!大体突風で機体がバラバラにされるかもしれないんだぞ!」
ガフェインはそう言いながら部屋のドアを閉めようとする。しかし、ドアは閉まる寸前のところでセリーナに無理矢理開けられる。
何なんだ一体。俺にいきなり死を強要してくるなんて、昨日なんか悪いものでも食ったか?正面に立っているセリーナを見る。ふむ、いたっていつものセリーナだ。右手にバールのようなものを持っていること以外は・・・・・。
「突風で機体がバラバラねぇ、あんた、まだ私が信じられない?私の整備がまだ信じられない?」
セリーナはニコニコした表情を崩さず、持っていたバールでガフェインの肩を軽く怒突く。
「あ・・・、あの・・・、セリーナ・・・・?」
「どうなのかな?答えて。」
「す、すいませんでした・・・・・・・。信じています・・・・・・。」
あれ?こいつこんなキャラだっけ?
「信じてんならとっとと支度してほしいな?」
「は、はい・・・・・・・・・・・。」
ガフェインはセリーナの笑顔の下の気迫に圧倒されて無理やり承諾させられてしまった。
「やっと決心つけてくれたね。でもひどいよガフェイン〜。次にわたしのメンテにケチつけたらただじゃおかないんだからね?あ、そうだ、朝ごはん作ってあげる。」
とりあえずこれからはメンテにはケチをつけないでおこう。今度は殺されるかもしれない・・・・・・・・・ニコニコ顔で。
「さあ、できたよ。これでも食って元気出しなさい!」
ガフェインは言われるままに朝食を受け取る。
「はぐ・・・・・・・はぐ・・・・・・・。」
「どう、ガフェイン、おいしい?」
「・・・・・・・微妙。」
「なによー、女の子が朝ごはん作ってあげたのよー。ここは素直においしいって言うところでしょー?」
人格変わるのはどうやら整備関連のときだけみたいだな。助かった。
「嘘だよ、結構うまかったぞ。」
「・・・・・・・・・・・・!!」
敢えてやさしく語りかけるとセリーナの顔が真っ赤になる。ここまで反応が強いと面白いな。ちょうど準備も終わった。そろそろ行くか、自信ないけど。
飛行場の格納庫で、セリーナと飛行のプランについて話し合う。今回は距離自体は大したことは無いが、天候がかなり悪い。そのうえ着艦ときた。
普通の神経をしていればまずやることは無いだろう。だが、飛ばなければ命が無い。飛んでもたぶん無いけど。
だが、飛ぶしかないので死なないようにちゃんとプランを練っておく必要がある。
「今回はそんなに飛ばないし、燃料は少なめでいいんじゃないか?」
「駄目、逆風で飛ぶと意外と燃料って早く減るものなんだよ。それに機体の重量をある程度確保しないと急な突風で簡単に飛ばされる。だから今回は燃料を満タンに入れておくべきだと思う。」
互いに意見を出し合っていれば自然に最善の案が浮かんでくるものだ。生きて帰れる可能性が出てきた。セリーナも俺を生かしてくれるつもりみたいだし。
でもパーツだけは譲らないみたいだが・・・・・・・・。
程よく意見がまとまったところで出発の準備に入る。
「わたしが整備した機体なんだから、ちゃんと戻って来るんだよ!はい、これが注文する品の表。」
セリーナの激励?を受けながらガフェインは機体に乗り、いつも通り滑走路の中央まで出る。やはり今回は嵐のせいでかなり視界が悪い。先が全く見通せない。
まあ、その時はその時だ!もう乗りかかった船。沈む前に岸にたどり着いてやる。
スロットルを上げ、突風に注意しつつ離陸する。海の上に出ると周りがぼんやりとしか見えなくなっていく。急に吹いてくる突風や罠のようにあちこちに点在するエアポケットに注意しながら海上を進む。
まだ灯台の明かりがうっすらと見えているのは不幸中の幸いだった。空母と無線で連絡をとりつつ、灯台の明かりとコンパスを頼りに空母の停泊している位置へ急ぐ。
『此方空母、此方のレーダーで貴機を捉えた。現在の天候では着艦は困難だ。天候の回復を待って再度アプローチされたし。」
空母からの連絡によるとレーダーで俺の機体を捉えたらしい。畜生、こっちは空母の影すらまだ見えないってのに!終わったらセリーナに頼んで性能の良いレーダーでも付けてもらおうかな。
「此方ガフェイン、ここで戻っても危険な事に変わりは無いんだ。無理にでも着艦させてもらう。」
『クソ・・・・・・わかった。此方でも準備をしておく。間違っても艦に当てるんじゃないぞ。』
「上出来だ。お心遣いに感謝。すぐ行くから待ってろ。」
通信の声は切れる間際、ため息をついていた。辺りは雷の音が響き渡りかなり危険だ。早いところ空母を発見しないと・・・・・。
その時、前方で光った稲妻で一瞬だけ空母の影が見えた。すぐに空母に連絡を入れ、着艦のために進入コースへ入る。
「此方ガフェイン、貴艦を発見。これより着艦する。着艦ランプを点灯してくれ。」
よし、着艦ランプがついた。
空母は全長330m 通常飛行場の約3分の1の大きさしかない。甲板へと着艦するには、着艦の際に機体のフックを引っ掛けて速度を落とすアレスティングワイヤーを使用する。
ガフェインは上空を旋回しつつ空母の後方から進入する。失速に注意しながら速度を下げ、同時にギアを出し、そのまま空母に接近していく。
あともう少し・・・・・・。もう少しでこんな辛いフライトも終わる。
しかし、そんな思いをあざ笑うかのように突然真横から風が吹き、機体が大きく煽られる。
「くそ、やべぇ!」
ガフェインは即座に急上昇し、機体は艦橋のすぐ上を通り過ぎる。
あのまま飛んでいたら間違いなく艦橋に激突していた。背筋の冷や汗を気にする暇も無く、再び進入コースへ機体を乗せる。
「今度こそうまくいってくれよ・・・・・。」
空母への距離をどんどん詰めていく。あと300・・・・・100・・・・。
「今だ!」
フックが引っかかるように機体を少し上に向けて着艦する。機体が少し揺れ、速度が落ち始める。どうやら正常にフックがワイヤーに引っかかったようなので、スロットルを一気に下げエアブレーキを全開にする。すると機体の速度が一気に下がっていき、停止した。着艦成功。
ガフェインは成功の嬉しさに浸る間もなく機体ごと艦内に格納される。
空母の中で機体を降りたガフェインは窓から空を眺める。もう嵐もだいぶ収まってきているようだった。ん?収まってきた?いやいや、ちょっと待て。
「・・・・・・・・・・・・・・・もうちょっと遅く出発していればよかったのか。」
まあ、何はともあれ空母へ一番乗りを果たしたのでセリーナに殺されることは無いのだろう。
だが、窓を覗き込むガフェインに何人分もの人影が迫る。
「人の苦労も知らずにのんびりたそがれてるんじゃねぇ!!!」
直後、通信の声の男や着艦要員達に袋叩きにされたのは言うまでも無い。
第7話に続く
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