第5話「港町にて(その2)」


ガフェインは朝焼けの港でただD島の方角だけを見・・・・・・・・・・・・。

「んぁ・・・・・・?」

まるでテレビのチャンネルを変えるように唐突に目の前の景色が宿屋の天井に変わる。どうやら夢だったようだ。
時間は午前10時。時間なんて気にしても情報収集は一通り終わらせてしまったのでやることなんて無いが。
朝食は簡単なもので済ませて外へ出る。もう日がだいぶ昇っている。折角だから愛機の修理の様子でも見てくるか。
町を歩いていると頭を痛そうに抱えているジムに会った。二、三度言葉を交わして別れる。
まあ昨日の酔い方じゃどんな奴でも二日酔いになるだろうな。それよりも肝臓の方が心配だ。ぶっ壊れてなければいいが。
何かを考える暇も無く飛行場に着く。着くのが随分早いのはこの町の飛行場は町の中にあるような立地なので徒歩5分程で着いてしまうからだ。
早速格納庫に入り修理中の愛機を見る。整備士の話を聞くに6割ほど修理は終わっているとのことだった。
オーバーホールに出してから1ヶ月も経たずにこれだけ大規模な修理に出すなんて今まで無かった。
なにしろ無茶な飛行に銃撃に列車上からの給油だ、機体がここまでボロボロになるのは仕方ないかもしれない。
爺さんがいれば2日で修理できたかもしれないが。まあ贅沢は言えない。修理してもらえるのだからむしろ感謝しなければいけない。
そんなことを考えていた時、飛行場の職員に呼ばれる。俺に会いに来た奴がいるらしい。誰かの見当もつかないまま事務所へ向かう。途中で何度も言われた「隅に置けない」発言が妙に引っかかるが・・・・・・・・・。皆目見当もつかないまま事務所の応接室のドアを開ける。

「あ、来た。ガフェイン、ごきげんよ〜う☆」

ああ、あいつか。
ガフェインはそのままその場で回れ右をして部屋から出ようとする。

「俺は何も見なかった・・・・・・・・・俺は何も・・・・・・・・・・ブツブツ・・・」
「こらー、帰るなー!」

まったく予想していなかった。まさかこんな辺境の飛行場で幼馴染のセリーナに会うなんて誰が予想できようか。
ガフェインはセリーナに無理矢理部屋の中に引きずり込まれていった。

「何しにこんなところへ来た?ひやかしなら帰れ。」
「ちょっとー、せっかく女の子が訪ねてきたのに帰れはひどくない?それにちゃんとした理由があって来たんですよーだ。」
「どんな用だよ。まさか俺関係の用とか言わないよな?」
「あったり〜☆あんたの機体の整備士として来てあげたんだよ〜」
「はあ!?お前飛行機の整備なんて出来たのか?」
「なめてもらっちゃぁ困る!!これでもベルッケお師匠のところに弟子入りしてたんだよ〜?出来るに決まっているじゃない!!」

ベルッケ・・・・・・いつも俺の機体を整備してもらってたあの爺さんか。って、爺さんの弟子って、まさかセリーナのこと!?
確かにこいつは昔から機械をいじるのが好きだったが・・・・・・・・・・・。まあ、こんな若い娘の弟子なんてできたら爺さんもあそこまで喜ぶのもわかるかな。
そしてセリーナが続けて話す。

「それにお師匠にあんたの面倒見るように言われて来たんだからね。追い返そうなんて考えないように。」
「余計な事を・・・・・・・・。」
「何か言った?」
「何でもありません。」
「まあ、わたしが来たからにはこんな修理1日で終わらせるよ。明日には飛べるからそのつもりで。」

単に自信過剰なだけのかもしれないが、もしセリーナが爺さんほどの腕前を短期間で習得していたとしたら、
おそらく言葉通り1日で終わってしまうかもしれない。

「あ〜あ〜わかったわかった。お前に任せるよ。」
「はいはい了解。じゃ、あたしの腕前を見ろぉぉぉッ!」

セリーナは意気揚々とドアを開けて出ていく・・・・・・・が、すぐに戻ってきた。

「あ、あはは・・・まず作業着に着替えたいんだけど・・・更衣室って・・・・どこだっけ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・ドア開けて正面の部屋だ。」

こいつ、本当に大丈夫だろうか。


「よーし、こんなもんかな・・・・・っと。ガフェイン、終わったよ。」
「え?もう終わったのか?」

さすが爺さんの弟子。一日どころか今日中に終わらせちまった。

「これで明日はもう飛べるよ。でもここにはいい部品が無くてホント困るんだよね、少し持って来ればよかったな。ああ、あと計画が決まったらあたしにも教えて。その場所を飛ぶのに一番いいように調整してあげられるから。」
「わかった。とりあえず明日飛べるってのは好都合だ。さっそくだが着艦フックを付けてくれ。」
「はあ?え・・・・それはできなくもないけど・・・・・あんた、空母にでも降りる気?」
「正解。実はここの沖合いにはたまに商船が停泊する。その商船っていうのは退役した空母をそのまま使ったやつなんだ。着艦の設備がまだ使えるから、毎回空母が来ると着艦しようって奴がいっぱいいるんだ。」

セリーナが辺りを見回すと、大概の機体にフックがついていた。

「そ、そんなの危険だよ。やめといた方がいいって。どうせただの商船でしょ?」

セリーナは心配しているようだ。だが、これを聞いても反対できるかな?

「ところが、ただの商船じゃあないんだなこれが。あの商船は、航空機や船のカスタムパーツをメインに揃えてるからな。他の奴が来る前にいいパーツを押さえておけば、あとはお前がやりたい放題だ。」
「や、やりたい・・・・放題・・・・・・」

セリーナの目がキラキラしてきた。ガフェインは一気にたたみかけようと語勢を上げて話す。

「そうだ!お前のやりたい放題だ!今までよりもずっと性能のいいパーツを使える!そしたらお前はすごく嬉しいだろ!そうだろ!それによって機体の性能が上がるから俺も嬉しい!俺もお前も嬉しくなるんだ!どうだ!賛成だろ!」
「大 ・ 賛 ・ 成〜!!!!今から準備しちゃうー!!明日までに準備しておくから〜!!」

計画通り。上手くのせてやったぜ。空母に着艦って一回やってみたかったんだよなぁ。飛行場の数分の一ほどの広さの甲板に颯爽と着艦。
う〜ん男のロマンだ。燃えてきた!

「でも、せっかく準備したんだからちゃんといいパーツ押さえないと・・・・・・・・・嫌だよ?」

な、なんだこのとてつもない威圧感は。これは絶対にいいパーツを押さえとかないと鉈や鉄パイプで頭をカチ割られそうだ。

「は・・・・・はい・・・・・。」

彼女の前にガフェインはただ承ることしかできなかった。


第6話に続く


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