第2話「安息は続かず」


ガフェインは朝日の荒野の上を悠々と飛んでいた。昨日の大冒険がウソのようだ。
ふと周りに目をやると、遠くを馬に乗った一団が自分がさっきまで居た飛行場の方へ駆けていく。
確かにこの島は建物(の外見)のセンスが西部劇の時代のそれとほぼ変わらないが、まさか内情まで同じなのかと思ってしまうことがある。
そうなるとあの一団は差し詰めインディアンみたいな原住民とかだったりして・・・・・・。そんなわけないか、大方乗馬か何かだろう。
道中何も起きないせいで勝手気ままな考えが頭の中を駆け回っている。昨日は色々なことが起こったため今日のフライトは若干退屈だが、逆にこっちの方が良いかもしれない。

そんな事を考えているうちに次の飛行場に到着。この飛行場のすぐ近くの町は列車の駅がある為民家や店が多く、町には活気が溢れている。
飛行場に手際よく着陸し、町へ食事と情報収集のために向かった。
ガフェインは飲食店の類の店を探して町を歩く。
しかしながらさっきから誰かに後をつけられているような感覚に襲われる。自意識過剰なのかとも思ったが、後ろからつけてくる足音は消えるどころかますます増えている。
なんだか怖くなってきた。落ち着け、ガフェイン・ブルフィンチ。ただ後ろを振り返るだけでいい。そうすればさっきから聞こえてくる足音の正体がわかる。
深呼吸して、ゆっくり後ろに振り返る。
・・・・・・・・・・・・・・え?なに?さっきから聞こえていた足音はこの子供たちのものだったのか?
まあ、物珍しいからっていうのはわかるが・・・・・って、うわなにをするやめ・・・・・・・・・・・・・・。


「ふう、まったくひどい目にあった。」

ガフェインは小さな飲食店で朝飯を食べていた。
あの後子供たちから質問攻めをくらうなどしてもみくちゃにされたガフェインは、子供達の隙を付いて一番近くの飲食店に逃げ込んだのだった。

「しょうがないですよ。この町の子供にとって飛行機乗りは憧れですからね。」

ガフェインの呟きにそう店主が返す。

「それじゃあしょうがないな。」
「今この町はあなたの噂で持ちきりですよ。なんでも久しぶりにまたヴィルドバルに挑む命知らずが来た。って話です。」

ガフェインは不思議そうな顔をする。ヴィルドバルに挑むなんてまだ口外してはいないのにどこからそんな話が出てきたのだろうか。
そんなガフェインの考えを察したように店主が言う。

「こんなへんぴな場所へ飛行機乗りが来るなんてヴィルドバル以外に考え付かないですよ。」
「他の用事で来た飛行機乗りは可哀想だな。」
「そんな心配は無用ですよ。その証拠に他の用事で飛行機が飛んで来る事なんて稀ですからね。」

そんな話をしていると他の席から話し声が聞こえてきた。

「・・・・・・・あいつら・・また・・・・・・・・。」
「今度は・・・・・・・・だ。」
「・・・・・・・は俺の・・・・・・・を・・・・・・・・・・していった。」
「クソッ!・・・・・・・は何をしているんだ。」

一体何の話をしているのかはっきりとは聞き取れなかったが、どうやら良い話ではないようだ。

「あいつら、何の話をしているんですか?」

店主の顔が急に歪む。単なる好奇心から聞いただけなのだが。まずい事を聞いてしまったか?

「ここら辺には昔からこの島に住んでいる原住民がいましてね。たまに現れては色々と被害がでるんですよ。
こちら側の交渉も拒否して、出て行けの一点張り。お客さんは特に気をつけたほうが良いですよ。
奴らはヴィルドバルを神の住む処として崇めている程ですからね、そこへ行こうなんて人は特に狙われる。」

じゃあここに来る途中に見た騎馬の一団はやっぱり原住民で、飛行場を襲撃しに行っていたということか。まったく、原住民との小競り合いなんていつの時代だよ。
それにしても出発が遅れていたら大変な事になっていた。ったく、さっき乗馬なんて気楽な事言ってた奴は誰だ!

「でも、いちいち襲撃があったんじゃ降りようにも降りられないよな。そういう時はどうしているんだ?」
「と、いいますと?」
「飛行場が襲撃されているときは着陸できないから燃料が心配だ。そういう時はどうする。」
「二つ方法があります。どこか別の場所を探してもらうか、列車の上から給油を行うか。」
「はぁ?」

列車の上から給油?俺の耳はどうかしちまったのか?

「れ、列車の上から!?どういうことだよ。」
「そのまんまの意味ですよ。ここの路線は鉄道会社がシャレで上に給油装置を付けた車両を必ず一両はつけているんです。」
「で、使えるのか?それ。」
「それは使えるでしょうけどあくまでシャレですよ。今までその方法を使った人はいませんよ。」

だろうね。どう考えても墜落の危険が大きすぎる。そんなことするくらいなら不時着する方が良いだろうから。
まあ、元気いっぱいの原住民の方々に捕まって見せしめに・・・・・・・くらいは覚悟しないといけないけど。
食事を終えて店長と話していると、突然サイレンの音がした。すると店長がその音を聞いて言った。

「奴らが来たみたいだ。もう出発したほうがいい、急がないと滑走路を塞がれるぞ。」

店主は棚の上から何かを取り出す。

「あんたはどうするんだ。」
「こう見えても自警団に入っているんでね。それでは良い旅を。」

店主は手に持ったAK-47を頼もしそうに掲げた。

「ああ、そっちも元気でな。」

ガフェインは代金をカウンターの上に置くと、飛ぶように飛行場へと駆けていった。


第3話に続く


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